陳淑芬 インタビュー

陳淑芬が、「童話標本」を制作するにあたって、なぜ童話に興味を持ったのか、そして今回の制作について、どういうことを考えたかなどを聞いた。これは画集の巻末に収録されるインタビュー。

『童話標本』をめぐって

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今回、どうして童話をモチーフに書いてみようと思いましたか?
陳淑芬
数年前、台湾にいる小説家の友人に頼まれ、童話シリーズの小説の表紙を描かせて頂いたんです。その仕事の打ち合わせで、いつもその友人と平凡に、童話を茶化した笑い話を聞かせてもらっていました。私は今まで童話についてそんなに興味がなかったのですが、聞いているうちに面白くなってきて、自分なりの童話を描いてみたいな、と思うようになったんです。
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小さい頃に読んで印象的だった童話は?
陳淑芬
実は子供の頃、童話を読んだ覚えが無かったんですよ。漫画ならいっぱい読んでいましたけど。白雪姫や赤ずきん、みにくいあひるの子は知ってますけど、なぜ知ったのかは思い出せないくらいで。印象的だった作品は赤ずきんですね。
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赤ずきんの、どこが印象深かったんですか?
陳淑芬
幼い頃に、親戚の叔母さんに赤ずきんのお人形をもらったんです。私は食べ物とシャボン玉、ペンにしか興味を示さない子供だったのですが、その人形は唯一のオモチャで、そこで親しんだのでしょうね。
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では、絵本といえば、何を読んでいましたか?
陳淑芬
絵本を読んだ覚えもないんですよ。台湾の田舎に住んでたのですが、近所の友達や親戚の子たち大勢で、外で遊ぶばっかりで。おとなしく本を読んだり、静かな遊びをしたことはなかったですね。憶えているのは、同級生と家で宿題の絵を描いていたとき、自分の絵は凄く出来が悪くて、その友だちに「あとは綺麗に描いておいてね」と頼んで、外に遊びに行ったこと(笑)。子供時代は凄く楽しかったのですが、まぁ、ホントに家にいた時間はなかったんですよ。
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意外に活発だったんですね。家族は童話を読んでくれなかったんですか?
陳淑芬
ええ。両親も童話に詳しくなくて。あの当時の台湾の親は、勉強第一だったんです。うちの両親も、「子供は勉強して、一流大学に入学して、公務員になって、安定した将来を送って欲しい」と期待していました。だから、教科書以外の読書は許されなかったというか(笑)。上の兄が優等生でいつも学年トップの成績だったんです。だから私も兄のようになることを期待されていたんですけど、実際は兄がこっそり買って来た漫画雑誌を読むことだけを見習ってました(笑)。学校の成績はとても自慢出来る子供ではなくて。
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じゃあ、大人になってから童話を読んだんですか?
陳淑芬
そうです。「シンデレラ」や「不思議の国のアリス」も、だいたいのストーリーは知っているけれど、実際に読んだ事は無かったし。大人になってから読んだせいで、好きな童話は大人向けかもしれません。例えば、「星の王子さま」とかグリム童話など。一番印象的な作品は「白バラはどこに」(第二次世界大戦を舞台にしたドイツの絵本)です。最初に読んだ時は、こんな童話もあるんだ、と驚きました。
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なるほど。童話に出てくるキャラクターを絵で描いた経験はありますか?
陳淑芬
子供の頃は読んでなかったので、仕事として描いたのが初めてになるんですけど、さきほど話した小説の表紙ですね。私は小五の時に台北市の小学校に転校したんですけど、その頃は漫画のキャラを模写していました。それは学校でもすごく流行っていたんですよ。私は架空のキャラクターも描いてましたけどね。特に名前も無くて、自分で考えたキャラクターを。あと、中学生の時に池田理代子先生の作品に夢中になって、ヒロインの絵をいっぱい真似して描きました。あまり上手くなかったですけど(笑)。15歳の時に映画「ロミオとジュリエット」の宣伝チラシを偶然を見て、オリビア・ハッセー演じるジュリエットに夢中になり、初めて女優さんの絵をリアルに描いたりもしました。
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なるほど。さて、今回の作品は、女優が童話を演じているイラスト集です。このアイディアはどうやって生まれましたか?
陳淑芬
最初は、平凡から「映画のワンシーンみたいな作品を描けば?」と言われて、一枚描いてみたんですけど、やはり上手くいかないと感じていまして…。それで、二枚目を描いているときに「標本」みたいだな…と思い、映画的なイメージではなく、標本のように描く方向で路線変更しました。そうして描いているうちに、標本というかは、舞台の上で演じている感じも良いかも、と思いまして、つい楽屋の裏話も考えるようになったんです。
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なるほど。その裏話が「童話通信」という新聞記事ですが、これを作ったのはどうしてですか?
陳淑芬
昔から日本で「○○通信」という言葉をよく見かけていて、気になっていたんです。「通信」という響きは格好いいと思います。なので、「通信」という言葉を使って、なにか記事を書きたいと思っていました。童話を架空の物語にはせずに、「真実や事件」として報道したら、面白いかな、と思って「童話通信」を作りました。

童話通信

童話通信
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文章は誰が書いたのですか?
陳淑芬
最初は私一人で書いていました。私が童話の題材を描いて、しかも作品に関連する報道記事まで書いていることを知って、まわりの友人たちも書きたいと言い出して…(笑)。図らずもみんなの創作意欲を刺激したな、と感じています。みんな情熱溢れるボランティアとして手伝ってくれました。
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芸能ニュース、女優のゴシップなんかは特に面白いですね。
陳淑芬
私も普段から芸能ニュースを見てるんです。台湾はタレントのゴシップ記事が盛んなので。だから自分なりのゴシップを書いてみたいな、と思って。
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陳淑芬さんのこれまでの絵のイメージとは違う、ユーモアのある絵もありましたね。女優の喧嘩とか、下剤を飲むとか。
陳淑芬
少しやり過ぎたかな…と心配していますが、タレントさんがデビューのきっかけを聞かれた時とかに、「別に芸能界には興味がないんですけど、友人の付き添いでオーディションに来たらスカウトされちゃって…」と答える話がよくあるじゃないですか。ああいうときって、その友人は「自分よりも目立つ子を誘って失敗した…」と、内心、腹立たしいだろうな、と思ったりして(笑)。そういう皮肉な出来事を書いてみたいと思いました。
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実際、陳淑芬さんは、ギャグマンガやテレビ番組って好きなんですか?
陳淑芬
古谷実さんの「行け!稲中卓球部」とか、さくらももこさんの「ちびまるこちゃん」、増田こうすけさんの「ギャグ漫画日和」とか好きです。「ウサビッチ」や「やんやんマチコ」もよく見ています。日本のテレビ番組も見てますよ。「ロンドンハーツ」や志村けんのギャグ番組とか。最近は、アメリカの『The big bang theory』(ビックバン★セオリー/ギークな僕らの恋愛法則)という番組にハマってました。すごく面白いので、オススメです。
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結構見てるんですね。あと、また絵の話になりますが、今回は、めずらしく子供も描いていますね。
陳淑芬
まだまだ子供を描くコツがつかめず、不安定な感じですけど、これからもっと描きたいと思っています。
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やっぱり、子供を描くときは、高校生くらいの少女を描くときと違いますか?
陳淑芬
そうですね…手で触れてみたい感じが出ることや、無邪気な眼差しを意識して描くことは同じです。でも、子供は少し前まで赤ちゃんだったわけですから、頬は膨らんでプニプニしてる点を意識します。高校生を描く時は、純情さを残しながら、子供っぽさを抜け出して「女性」へ向かい…、歩んでいく様子が凄く魅力的だと思っています。どちらも、「瞬く間に消えてしまう日々」ですよね。
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昔から、子供向けの絵本を描いてみたいと言ってましたが、それはどうしてですか?
陳淑芬
姪が生まれたのがきっかけかなぁ…。兄の子供が生まれてから、子供の成長を見るのが面白くなりました。真剣に絵本を開いたり、大人が読む物語を真面目に聞いている表情を見て感動したんです。
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なるほど。台湾ではどんな絵本が人気ですか?
陳淑芬
よく分からないですけど…。一度、本屋さんで親子が絵本を選んでいる姿を見かけたんですけど、お父さんは子供に「好きな本を選びなさい」と言いながら、結局は無理矢理に自分が選んだ本を買っていました。絵本は大人に売る物なんだなあと複雑な思いでしたね…。
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日本の絵本作家で好きな人はいますか?
陳淑芬
五味太郎、東逸子、おおた慶文、永田萠さんたちです。最近は酒井駒子、村上豊さんが好きです。日本の絵本作家は素晴らしい方が多いと思います。
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絵本というと、パソコンでなく、絵具で描かれるものが多いですよね。陳淑芬さんはもっぱらパソコンで描いていますが、ああいう絵本の絵をどう思いますか?
陳淑芬
生原稿の魅力があり、素晴らしいと思いますね。強烈な「手」の味わいを感じさせられます。私も手描き用の絵具は持ってますし、今回の作品も一部は手描きなんですよ。
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ところで、今回収録した童話はどうやって選びましたか?
陳淑芬
好きなものと、うまく描けそうな童話を選びました。好きだけど、うまく描けそうにないと思ったらあきらめます(笑)。
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今回、童話の絵を描いて、楽しかったのはどういう部分ですか?
陳淑芬
人物を標本のように表現するのが一番楽しかったです。まるで本当に標本を作っているみたいでした。私の場合、一番スムースに描けるのは顔なんですけど、衣装は…苦手ではないけれど難しかった。結構悩みましたね。
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特に楽しく描けた童話を教えてください。
陳淑芬
「人魚姫」が一番うまく進みました。海中生物が大好きですし…。海藻や金魚も楽しかったですね。
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そういえば、日本の「かぐや姫(竹取物語)」が入ってましたが、台湾でも知られているのですね。
陳淑芬
もともと知っていましたね。なぜかはよく覚えていませんが、「白雪姫」や「赤ずきん」みたいに、自然に知っていたというか。「桃太郎」も知っているし、子供のときから「桃太郎」の童謡も知っていましたよ。「桃太郎」の物語はアドベンチャーなので、あまり興味が湧かなかったのですが、童謡は好きでしたね。「浦島太郎」の話も寓意があって、面白いし好きですね。台湾にも似た童話がありましたよ。
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台湾のオリジナル童話で有名なものって何ですか?
陳淑芬
「虎姑婆(虎のお婆ちゃん)」という話があります。子供を脅かすための童話という感じ。「赤ずきん」と「七匹のこやぎ」を組み合わせたみたいな童話です。林投姐(森のお姉さん)の話なんですが、童話よりも民話に近いかな。お化けが出てくるので、怖い話が苦手な私は好きじゃなかったですね。「女婿回娘家(馬鹿な娘婿は実家に帰り)」という話はコメディで面白いですよ。他に面白い童話がたくさんありますが、絵本を買う時には、やはり絵や造本にひかれるので、つい日本の絵本を買っちゃいます。
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なるほど。では最後の質問です。今回は古典の童話を描きましたが、オリジナルの童話も描いてみたいと思いますか?
陳淑芬
やってみたいですね。実は以前、大きな魚の話を書いていたんですよ。最初はスムーズに進んだので、最後まで書ける自信があったのですが、途中でアイデアが出なくなり、あきらめました。将来は人を癒せるオリジナル絵本を描きたいですね。レオ・ブスカーリアの「葉っぱのフレディ-いのちの旅-」や、オー・ヘンリーの「最後の一葉」、大塚敦子の「わたしは今がいちばん幸せだよ-エルマおばあさんケア日記」、菊田まりこの『いつでも会える』みたいな作品を作りたいと思っています。

         

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