Interview-2

ニコラ・ド・クレシー インタビュー 2

第二弾は、過去からのアーカイブ。2005年、来日したド・クレシーにおこなったインタビューです。初期作品『フォリガット』や、使う画材、絵の変遷についてなどについて聞いています。

2005年、来日時の取材

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ド・クレシーさんの代表作『フォリガット』を描いたのは何歳くらいのことですか?
ド・クレシー
二一歳でした。専門学校を卒業して、一年後です。
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あれを二一歳で! 凄いですね。それで学校を出て、自分の将来をどう考えていましたか?
ド・クレシー
やっぱり私には描きたい漫画があった。だから商業的なものよりも、自分が信じる漫画を描きたいと思っていました。そうして描いたのが『フォリガット』。学生時代からこういう世界を描こうという意志を持っていて迷いはありませんでした。
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その頃のBDではどんな人が好きだったんですか?
ド・クレシー
マトッティとカバンヌですね。カステルマンの『ア・スイーブ』という雑誌で連載していました。絵で一番凄いと思っていたのがホセ・ムニョーズ(『Alack Sinner』の作画担当)。モノクロで、とてもコントラストが強くて。
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ド・クレシーさんの初期作品もグラフィズム、とにかく絵がすごい、というイメージがあるんですが、ご本人の中ではどうですか? ストーリーと絵で言えば。
ド・クレシー
両方ですね。でも、一番重要なのは「実験」。実験する気持ちがポイントです。例えば、良いストーリーを作るとか、上手い絵を描くより、私が目指したのは実験すること。Work in progress.  見たことのあるものではなく、いつも新しいものを。
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例えば『天空のビバンドム』を見ていても、ページによって絵の描き方が違いますね。
ド・クレシー
この本は、実験と挑戦ばかりです。十数年も前ですから具体的には思い出せないのですが、いろいろなテクニックを使っています。最初は鉛筆で線を描き、黒が強い線はインクと筆を使い、カラーリングはカラーインク、ガッシュ、水彩、色鉛筆、アクリルで太いブラシを使ったり…特に決めずに適当に何でも使いました。『フォリガット』も同じように描いてます。『フォリガット』で唯一使わなかったのはパステルですね。
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どうして、パステルは使わなかったんですか?
ド・クレシー
ただ、その時、家になかったからです。普段は水彩を使うのですが、『フォリガット』を作った時は、ディズニーのアニメスタジオで背景を描く仕事をしていたんです。そこでアクリルを使っていたので、あまり考えずに自然にアクリルになりました。
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『フォリガット』の人物の服に平面的な装飾模様のテクスチャがありますが、これは?
ド・クレシー
それはカーペットのカタログから切り取って貼り付けました。
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ところで、絵がこんなに自由な場合、物語を作るのは大変じゃないですか?
ド・クレシー
文章については、読みやすさを念頭に置きました。絵についての実験をまとめるものといえばセリフですね。流れを重視して、作品世界を統一させるんです。
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お話は最初に作ってあるんですか? それとも絵を描きながら考える?
ド・クレシー
もともと骨組みはあるんですが、途中で絵の実験によって、ストーリーも変更を余儀なくされていきます。
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あらかじめ、このコマには何を描く、というようには決めていないんですか?
ド・クレシー
決めていません。あらすじがあるだけ。
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では、どういう風に進めるんですか?
ド・クレシー
頭から一コマずつ順番に描いていきます。ストーリーには筋がありますから、ある程度の流れは想定してますが、絵でどう描くかは決めてませんね。一コマずつ、鉛筆、ペン入れ、着彩まで終えて次に進むんです。絵的には一ページの中でバランスを考えます。赤を入れたら次に黒を目立たせ、白も組み合わせてみたりと相性を考えて描きます。それらは計算ではなく、描きながらの勘で仕上げて行きます。
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どうして、計算ではなく、勘で描こうと思ったんですか?
ド・クレシー
最初は勘で描いて、その後に一応の計算はします。でも、絵で重要なのは勘だと思うんです。私は本能的に呼吸をするように絵を描きますから。
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学校でデッサンの勉強をしたりするのは、そんなに重要なことではないとお考えですか?
ド・クレシー
勘で描くといっても基本となるものがなければ描けません。やはりデッサンなどは勉強するべきでしょうね。
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さて、『天空のビバンドム』などはだいぶ前の作品ですが、近年は絵的に作風が変わりましたよね? 何かきっかけはあったんですか?
ド・クレシー
昔はページごとに挑戦を行っていたのですが、今は単行本一冊単位でやっています。一冊の本の中では一つのスタイルをキープするんです。ページごとに様々な実験をするのは、初期の本でやったので満足しました。その方法は時間も労力もかかりますし、さすがに疲れましたね。
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モノクロで作品を描くのも実験の一つですか?
ド・クレシー
速いペースで、新鮮な気持ちで描きたかったので、モノクロ作品を描きました。毎日、一〇ページは描きましたよ。
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するとコンピュータを使ったのも実験?
ド・クレシー
ちょっと、試してみたのですが、もうやめます。バーチャル過ぎて、あまりコントロールが出来ない。例えば、コンピュータのスクリーンで見ると素晴らしいけれど、それが印刷になると違ったりするし。描き始めた時はとてもわくわくして、これからはコンピュータを使って作品を作るぞ、と意気込んでたのですが。当時はPhotoShopで描いてました。
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Painterは使わないんですか?
ド・クレシー
PhotoShopに比べて、Painterは、筆や水彩のタッチを再現することに優れていますね。でも、逆にそれならば、実際に筆で描いても同じだろうと思いました。画材のタッチをいろいろ変えられる点も、私はもともと筆でいろんな画材を混ぜ合わせて描いてましたし、コンピュータならではの利点が結局見出せなかったんです。
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なるほど。ところで、日本のマンガ家やアニメ作家に、あなたのファンがたくさんいることはご存知ですか?
ド・クレシー
ぜんぜん知りませんでした。メビウスとエンキ・ビラルはフランスでも売れっ子ですよ。でも、私は違う。私の本はフランスでもそんなに売れません。批評家の間で話題になったりはしますけれど。私の作品はあまり大衆向けの読みやすいものではないので……。これからは、できればもっとたくさんの読者に読んでもらいたいと思っています。
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例えば、日本からアニメの依頼があれば、どうですか?
ド・クレシー
自分でも世界観や物語を考えて企画書にしてますが、新たに日本でも何かあればやりたいですね。ストーリーボードやイメージボードなどやってみたいです。いつも頭の中に、アニメと漫画のストーリーのストックがあります。具体的なものは今、三つあって一つは本です。絵本ですね。
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今度描くとしたら、コンピュータは使わずに描きますか?
ド・クレシー
最近、またコンピュータを使ったのですが、その際は、色はベタで塗りました。これからの新しい作品でもっと細かく塗りたい場合、筆で描こうと思います。
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私どもの漫画本「Slip」に描いてもらった『プロゾポプス』がCGでしたね。白い頭のモンスター的なキャラクターが出てきましたが、日本の人たちはこれを見て、「可愛い」と言います。ド・クレシーさんはどうですか?
ド・クレシー
可愛いけれど奇妙で、ちょっと気持ち悪いというイメージ。基本的にはこういうモチーフには興味があるし、好きですね。例えばデビッド・リンチかな。彼の作品は可愛いとは言いがたいけれど、近いと思います。可愛い世界の背後に、デビッド・リンチの世界が覗くような作品を目指しています。
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なるほど。最後に、日本に来た感想を教えて下さい(2005年当時の話)。
ド・クレシー
ええ。名古屋の町を見て回り、都会と郊外のほうを観察しました。田舎のほうの景色はよかったですね。ストーリーはこれから考えて、ひとつのエピソードを作りたいと思っています。画材店にも行きましたがフランスより種類が豊富で、たくさん買ってしまいました。
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そうですか。では、またそういう画材で新たな実験を。今後も作品を楽しみにしています。

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