笹井一個作品集『ガソリン』特設サイト


笹井一個 インタビュー

作品スタイルについて

――――――
デジタルで描かれていますが、ソフトは何を使っていますか?
笹井
Painterです。最初にPainter Classicを買って、今はPainter6を使っています。けっこう古い型なんですけど、機能にレイヤーが付いてからは、基本的に事足りています。Painter6を買う前はひとつのレイヤーに描いていたので。
――――――
ひとつのレイヤーだと、制作行程はアナログ的ですね。
笹井
そうですね。今でも極力レイヤーは作らないので、「何でデジタルで描くの?」と言われたこともあって。何でかって、「undo(直前の状態に戻す機能)」があるから。「undo」があるかないかで、全然絵が変わるんじゃないかな。「undo」があると失敗が「無い」ので、萎縮しないで描くことが出来る。そういったデジタルの特性が、絵柄を作っている部分も大きいと思います。
――――――
なるほど。笹井さんの絵は自由な筆致が魅力的ですよね。初期の頃の絵では、水彩やクレヨンのような質感もCGに取り入れていて、アナログ描写の味わいも感じる画作りが印象的でした。そういったアナログ的な感覚もCGに取り入れたいと思っていたのでしょうか?
笹井
手描きっぽさの再現だったかと言うとまた違って。知り合いでも、元々アナログをちゃんと描いていた方は、アナログの描き方をCGで再現しようとしていましたけど。私の場合は、CGから本格的に絵を描きはじめたので、絵の描き方が決まっていなかった。「ここにあるツールを色々使って絵を描こう」という感覚でした。
――――――
笹井さんがイラストレーターの活動をはじめた2000年頃は、色々なタッチを混ぜて描いたCGイラストってほとんどなかったですよね。なので、笹井さんの絵を見た時は驚きました。
笹井
効率の悪い描き方なので、一般的にはしようと思わないんじゃないかなぁ(笑)。私は作品を作る時に、構造から考えてみるのが好きです。枠組みが決まっていて、表だけを塗り替えるんじゃなくて、できるだけ毎回仕組みの所から考えて作りたいと思うので。最近、Gumroad(デジタルコンテンツを販売するサービス。イラストのデータも売買することが可能)というネット上のサービスが話題になっていたじゃないですか。それで、イラストレーターの仕事についても考えさせられる部分があって。イラストレーターとして普段もらっている報酬というのは何かと言うと、プリントサイズのデータを提供するというより、オーダーメイドで絵を描くことへの報酬だと思うんです。依頼を受けて、ゼロからどういう作りにするかを考える、建築で言うと設計からやるような。イラストを制作する工程の中では、そこに一番時間を使ってしまいます。
――――――
確かに笹井さんのイラストは、作品に合わせて絵柄の方向性や、筆のタッチも違っていますよね。雰囲気がガラッと変わるのは、構造から考えているためなんですね。写真などのテクスチャを使ったイラストも面白いです。
笹井
『ケモノヅメ』というアニメの仕事で、写真を使って背景美術を描いたことがきっかけで、自分のイラストでもやってみようと思って。その頃にはじめてカメラを買ったので、面白がって使っていたこともあります。今までは頭の中のイメージを100%使って描いていたんだけど、写真を使って現実と混ぜることで、ちょっと違和感のある絵にならないかなぁと思っていました。
――――――
ペイントした貝殻の写真を使った作品が特に印象的でした。
笹井
この絵の場合は、先にラクガキした貝が手元にあって、それをイラストに使いました。ハマグリのお吸い物を作った時に、ペイントして貝合わせを作っていて。その貝を並べて写真に撮って、その上からCGで描いています。
――――――
ペイントした立体物の貝殻と、CGのキャラクターなどが混ざっていて不思議な感じですよね。また、作品集にも多数収録されているループイラストも変わった構造の作品ですね。モチーフが繰り返し繋がっていって、だまし絵のようにも見えます。これはどういうきっかけで描きはじめたんですか?
笹井
イラストレーターになる前はゲーム会社にいたんですが、そこでテクスチャの繋ぎ方を教えてもらったことがあって。草や石のテクスチャって、タイルになっている絵を繰り返し繋げているんですよ。その方法を使って具象の絵を描いたら面白いかなと思ったことがきっかけです。会社で教えてもらったPhotoshopのやり方でしばらく描いていたんですけど、「Painterに同じ機能があるよ」と教えてもらって、今はPainterで描いています。それとループイラストには、カナダのアニメーション作家、ポール・ドリエッセンの作品の印象もちょっと入っています。THE BEATLESの『イエロー・サブマリン』のPVなども手掛けている方なんですが。
――――――
どういう映像なんですか?
笹井
ループイラストのイメージソースにしていたのは、『生存競争』という作品で。灰色の同じキャラクターが地平までズラーッと並んでいる映像です。はじめて見たのは、中学生の時でした。
――――――
そういった映像を見る機会があったんですか?
笹井
本当に偶然なんですが、新聞でアニメーションの上映会が近くであると知って、行ってみた会場で上映されていたんです。かなり衝撃的で、その印象が強烈に残っていますね。
――――――
そうだったんですね。ループイラストは絵の繋がり方にも色々なパターンがありますよね。横や縦に繋がったものがあったり、斜めに繋がっていたり。特に気に入っている作品があれば教えてください。
笹井
ループイラストを分類すると、意味的に繋がっているループと、群像になっているループがあるんですよ。画集に収録されている絵は、わりとどれも気に入っているんですけど、ワイアレスや、つぎはぎの女の子の絵は好きですね。つぎはぎの女の子は意味的に繋がっているループになります。


――――――
つぎはぎの女の子の絵は、自分で自分の頭を縫っているループになっていますね。繰り返されているだけではなくて、繋げることで絵が関係し合って、意味のある動きになっています。
笹井
今回作品集に収録されていないんですが、「猿勝負」というネットの企画で描いたループイラストも思い出深いです。
笹井
絵を投稿する企画だったんですけど、寺田(克也)さんも参加されていて、寺田さんをリスペクトする人や、絵が好きな人が集まった活気のある場だったんですよ。この絵は、そこでアップしたものなので、いちおう自分の中では寺田さんをテーマに描いています……(笑)。
――――――
そうだったんですか! 確かに、狂気を交えたちょいエロな感じが。この絵も意味的に繋がっているループですか?
笹井
そうですね。銃口を突きつけられて左下に繋がっていくラインと、腕を絡ませた横に繋がる二つのラインが入ってます。
――――――
描いている途中で「ここも繋がるかも」という発見がありそうですよね。
笹井
そうですね。けっこうその場のノリで描いていたりもします。ループイラストって絵に中心がないんですよ。中心のある絵を繋げると、模様みたいになってしまうので。コミケの紙袋に使われた絵も、全体を均一に描いた方が繋がって見えるんですよね。
笹井
この絵は、少し引き気味から見ると、ゴスっぽい黒い格好の子が目立っていて。一部が浮き出てしまうと模様のように感じるから、この子がもっと周りに馴染んだ色だったら、均一な感じになったのかなぁと思います。
――――――
なるほど。これは群像のループですけど、つなぎ目が分からないですね。
笹井
実際にぐるぐる回しながら描いているからつなぎ目はないんですよ。
――――――
スクリーン上でキャンバスを回しながら描くんですか?
笹井
そうではなくて、スクロールさせながら描くんです。Painterにデフォルトで付いている機能を使っているので、実際に描いてみると簡単ですよ。絵を左端にスクロールさせると、画面から消えて反対側の右端から出てくるので、それをずらしながら繋がりを描いているんです。描いている時は全体像がよく分からないので、時々絵を敷き詰めて確認しながら描き進めています。

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