笹井一個作品集『ガソリン』特設サイト


笹井一個 インタビュー

色遣いや、よく描くモチーフについて

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笹井さんの絵を最初に見た時、外国っぽい雰囲気を感じたのですが、イラストレーターの知り合いの方からも「BD(フランスのマンガを表す「バンド・デシネ」の略称)ぽい絵」と言われていたと、話されていましたね。
笹井
そうですね。私自身はそう言われるまでBDの作家さんを全く知らなかったので、「BDぽい」と言われても意味が分からなかった。でも、私が好きな日本の作家さんが、海外の作家さんの影響を受けていることもあると思うので。そう考えると、間接的にそういった作風が自分の中に入っていたのかも。
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色遣いからも、BDに近い雰囲気を感じたのかなと思うんです。初期の頃は特にこってりとした色を使われていましたよね。
笹井
日本よりフランスの方がこってりした色遣いが多いですよね。フランスの伝統色は、グレーぽい色とか、中間色も多くて。日本の色にはパステル系が多いんですけど、使うのが苦手で。こってりした色の方が好きです。モノを選ぶ時も、結果的にドイツやオランダあたりの製品を手にしていることが多いので、あの辺りは自分好みの色が多くてうらやましいなぁと思いますね。
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外国の製品は、こってりした色が多いですよね。
笹井
でもこういう色って、日本でも馴染みのある色なんじゃないかと思ったこともあって。福岡の柳川にある美術館に行った時に、鎧兜が展示されていたんですけど、レンガっぽい赤と、青緑系の灰色の組み合わせの具足がたくさん並んでいたんですよ。色の組み合わせが、私のよく使う色と同じなんです。今まで、自分が使う色は「日本ぽくない」と言われ続けてきたけど、日本にもあるじゃないか! と。
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レンガっぽい赤は、日本の色で言うなら朱色系ですよね。神社などでもよく使われます。
笹井
そうですよね。鳥居に塗られていますし、神様の色なんでしょうね。朱色は好きな色です。
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色でもう一つ気になっていたのが、笹井さんは人物の肌をグレー系で塗りますよね。他の作家さんではあまり見ない気がします。
笹井
自分が肌をグレーで塗っていたのは、人から言われて初めて気がついたんですよ……(笑)。
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一般的な肌色を使おうとは思いませんでしたか?
笹井
そうですね。他の色とも合わないし。色数が多くなると調和をとるのが難しくなるので…。主張のある肌色の場合は、画面の中で一色ぶんとして全体に響いてきちゃいますし。肌って面積も広くて視線が集まるので、排除したかったんじゃないかなぁ。挿絵の仕事で、本文が健康的な場合は色を考えますが、私の絵は健康的という言葉とは無縁の世界観なので……(笑)。
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そんなことはないと思いますが(笑)。続いて、よく描くモチーフについてもお聞きしたいです。オリジナル作品では、少女と大男の組み合わせをよく描かれていますよね。
笹井
でっかいものと小さいものとか、極端だったり対照的だったりする組み合わせが好きです。今はお仕事で中高生くらいのキャラクターも描くようになったんですけど、それまではいわゆる主人公的な年代を、自主的にほとんど描いていなくて。オリジナルで描く時は、思春期の前後くらいの年代が多いですね。子供か大人。
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確かに、言われてみるとそうですね。少女と大男を描かれる時は、いつも少女の方が強そうなのが面白いなぁと思います(笑)。大男が怒られていたり、泣かされていたりしますよね。
笹井
大きい方が強かったら弱い者いじめじゃないですか(笑)。一寸法師的な感覚なのかな。小さい者が大きい者に勝つと痛快というか。
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童話っぽい雰囲気の絵もあります。以前に、子供の頃は海外の童話が好きだったと話されていましたね。
笹井
子供の頃はよく本を読んでいて、特に『(アンドルー・)ラング世界童話集』というシリーズが好きでした。世界中の民話が入っているんですけど、海外の民話に『日本昔ばなし』的な挿絵が付いていて面白いんですよ(笑)。お話の中で不条理なことが次から次へと起こったり、何の前触れもなく不思議なことが起きるというのが読んでいて楽しかった。でも、大人が子供に読ませたがる本って子供には面白くないですよね(笑)。
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読書感想文用の推薦本とか?
笹井
そう。大人が読ませたがる本ってだいたい良い話じゃないですか。「優しい子に育って欲しい」という道徳的な話で。私は特に全く情を理解しない子供だったので、そういう話の肝が分からなくて。『ラング世界童話集』というのは、理不尽なことが次々と起こるし、暴力表現も平気で描かれていたんです。有名な童話も多く収録されているので、翻案されて一冊の本になっているお話もあるんですけど、そうなると内容がすごくソフトになっていて。子供心に「つまらないなぁ」と感じていました。でも、童話の中では腕が切り落とされる描写も怖くないのに、江戸川乱歩の殺人事件とかは怖かったな。装幀が怖かったのかなぁ。ちょっと怖いものがインプットされると、想像が広がってしまって、夜にお風呂へ入れなくなる子供だったので…。
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それはちょっと意外ですね。
笹井
こういう話をすると、よく意外がられるんですよね。何でなんだろう。
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(笑)。でもそういった童話のお話を伺うと、笹井さんの作品にも通じますよね。女の子が大男の目玉に座って笑っている絵とか、世界観が近い気がします。
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笹井さんのキャラクターは口を大きく開けて笑っていたり、「二カッ」とした笑顔も印象的で。見ようによっては、ちょっとブラックな表情にも感じるんですが、ご本人はどういうイメージで描かれているんですか?
笹井
私としては、普通に笑っている顔のイメージで描いています(笑)。でも見る人によって解釈が違うので面白いなぁと思いますね。
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絵柄や色はアンニュイな印象なんですけど、キャラクターが思いっきり笑顔で描かれていたりするバランスが面白いですよね。
笹井
確かに笑顔の絵は多いですね。何て言うか……みんなが神妙な顔をして、けだるそうにしている世界はありえないだろう、と(笑)。
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そういう感じなんですか(笑)。
笹井
そうですね。カラーリングは重たかったり暗かったりするんだけど、生きている人がみんなだるそうにしているわけではなくて。くだらない冗談を言う人とかもいるわけですよ。描いている世界が自分のデフォルトなので、ご飯も食べるし、朝起きて着替えもするし…。
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けっこう、日常に近いイメージなんですか?
笹井
……今のは、ちょっと適当な部分もありますけど(笑)。喜怒哀楽がある世界をイメージしていますね。
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そうなんですね。でもイラストの世界って、キャラクターがアンニュイな表情で描かれることが多いですよね。
笹井
そうですね。私も最初にお仕事をいただいた『ペロー・ザ・キャット』という小説の装画は、アンニュイな雰囲気で描いていて。お話がフランスを舞台にしたSFものだったんですけど。でも、このままアンニュイ系の絵描きとして扱われたら困るなぁと思っていた部分もあって(笑)。少し意識的に仕事の中でも笑顔を描こうとしていた時期もあったかもしれないです。その次にいただいたお仕事が「コミッカーズ」の表紙で、そこでは笑顔を描いています。
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先程の少女と大男のイラストが、「コミッカーズ」で掲載されたものですね。オリジナルのキャラで言うと、漫画『夜想譚』に登場する片目のキャラクターも印象的でした。
笹井
アナログ時代からこういったキャラクターを描いていて、それを新しいデザインで描き直したのが『夜想譚』です。このキャラは、神様みたいにずっと生きている存在で。時代時代で神様扱いされたり、悪魔扱いされたりしているんだけど、本人はそれを意に介さず生きている。こういったキャラは、基本的に喜怒哀楽が激しいんですよね。極端に笑ったり怒ったりするし、やることが乱暴だったりする。そういう神様みたいな存在や、ダイダラボッチみたいなでっかい存在も好きで描きますね。