小島文美 インタビュー

小島文美が、画集発売に際して語ったインタビュー。手法的な話題から、モチーフに ついてまで、幅広く語っていただきました。「季刊エス32号」掲載インタビューの完全版で、分量が長くなっています。

『Santa Lilio Sangre』をめぐって

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まずは小島さんが使っている画材を教えてください。
小島
最初は手元にある、学生時代から使っていた画材で描き始めてしまったので、 水彩絵具や色鉛筆を使っていました。今はアクリルガッシュが多いです。
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最初というのは高校生の時ですか。
小島
大学時代ですね。小学校の図画工作で、ぺんてる絵具などを用意するかと思いますが、高校生の時もそのレベルだったので(笑)。小学時代に比べれば選択科目で美術などもあり、多少専門的にはなるので、他に色々画材や技法を教えてもらえたりしますし。ホームセンターや画材屋に行くのが好きだったので、例えば「透明水彩って何なの?」と思いながら、あまり特性も分からないままに買って使ってみたり、インクなどは使わなくても、パッケージの可愛いさに惹かれて買っていました。その頃は絵の道具というより、手芸用や、靴や家具を修理するために使うことが多かったです。
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画風や使い勝手を意識して、画材を買うようになったのはいつ頃からですか。
小島
割とお仕事をし始めからでした。というのも色々準備をして始めます、という経緯ではなく、なぜかお仕事を先に頂いたような状態でしたので、最初は手元にあるもので何とかやっていました。それまで、カラーでイラスト的なものをあまり描いたことが無く、本当にお恥ずかしいのですが、手元にあったサインペンなどで、同じくありものの絵具で色を付けていて。でも思うように使えなくて。「じゃあどうしよう?」ということで、耐水性のインクを探してみたり、後々、重ね塗りが出来るアクリルを使うようになりました。 色々とお仕事をしながら勉強、という感じでした。今も。
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画集に載っているものは完成された絵が多いので、そういったことを感じさせませんが、最初は試行錯誤されていたんですか。
小島
そうですね。今でも内容により色々使いますが、このたびの画集には、仕事以前の古い絵もありまして、それなども当事手元にあった鉛筆とインクで描いたものです。そのインクというのも瓶に入ったインクではなく、マーカーのフィルターを絞って水に溶いたもの…、子供の頃、父母から貰いました36色セットの当時としては豪華な、自分には宝物でした。もう乾いてましたが水性でしたので溶けました(笑) 何かの本で絵描きさんが、そういう使い方もできると書かれていて、思い出して。他に手持ちの教材のぺんてるガッシュだと、鉛筆画などタッチを塞いでしまうのですが、インクだと染料なので、潰さないでくれるんです。今思えばカラーインクや透明水彩でやれば良いことなんですが当時は不勉強で。
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そうすると、だんだんと仕事をする中で、アクリルガッシュを使うようになったんですか。
小島
絵に興味を持ち始めると、油絵を描くのが好きでした。お仕事には難しいかと、消去法のような感じでいわゆるアクリル絵具を使うようになりました。でもやはり油絵とは風情が違うので、時々無性に油絵具を使いたくなります。
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油絵具が好きだったのは、なぜですか。
小島
学生時代に、趣味程度なので我流ですが油絵にふれまして、対象物、例えば自然の緑を描く時などに筆で画面を埋めて塗っていくよりも、パレットナイフや指に緑に至る色やいくつかの色を拾って、ざくっと塗っていくのが好きでした。偶然の混色と言うんでしょうか、パレットナイフだと筆よりも強弱や配色がランダムというか、筆では狙えない風情が作れるのが好きでした。
――――――
モデリングペーストを使われているのも、油絵の延長のような感覚で?
小島
パレットナイフが懐かしくて(笑)いえ、やはりイラストですと、偶然や自由さよりも他者に伝わるよう説明的に物を描かなくてはならないだろうかと、自分の大雑把な油彩ではかなわないので、タッチを想いながらモデペで何か生かせればとか。油彩と対極の水彩などでも、特性にまかせる滲みやぼかしで感覚的なイラストになって、描いても見ても楽しいなと思います。
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モデリングペーストで作った背景が何かの形に見えるような時もあって面白いです。
小島
敢えて、そういう風に使う時もありますね。半立体の「こて絵」が面白いな、と思ったりして、ちょっとそんな気持ちでやる時もあります。
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そういった背景と、今のような人物描写は同時に出来たスタイルですか。
小島
人物部分もアクリルであまり薄塗りではないので、画面のモデリングもそのまま持っていってしまったりでそのように。画材も同質なので。もし水彩画だったらモデペは使ってないかも…?でもモデペの上に水彩を塗っていたかもしれませんけれど(笑)。モデペに薄塗りもきれいですよ。油絵もモデペも、固まって凸凹した上に色をのせるのも面白いです。印刷には向きませんが…
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小島さんはリアリティのある人物描写ですが、モデペなども使っているので、全てが写実的なわけではなく自由度もありますね。
小島
影響やお手本とは別に、例えばシャガールやブラック、マティスなど、伸び伸びとした自由な印象の絵も好きで、それは細密写実とはまた違った、追及や想像が広がるような、偶然のタッチの中に何か、見る側次第の意味やイメージを思わせてもらえたり、素敵だなと。イラストと言えば解説的なものかもしれませんが、「絵」として広義に言えばそうした表現も憧れますので。
――――――
イメージの話になったので、小島さんが絵を描く時のイメージの作り方についても教えてください。
小島
お仕事の場合、そのままわかりやすく、というものもありますし、内容に含まれている要素を引き出してきたり自分なりに解釈してみたり広げたりとか。具体的、説明的に表現が必要なものもあると思いますが、また反対に具象を伏せて、イメージの幅を広く想像して頂けるのも素敵だなと思います。 モデリングについては、絵によってちょっと古びたシャビー?な感じが望まれる場合、その風情を作りたくて、というのもあります。雰囲気は頭で多少考えますが、描いていく中での偶然も込みですね。例えばクモの巣だったら、グルグルしてみようかとか、イメージの統一感というのは意識しています。
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光の演出もドラマチックだと思います。
小島
それは色々な解釈というか、私的な理想もあるのですが、お話の内容などでも明暗や正邪、対比のあるものですとそのイメージであったり、カバーなどのお仕事の場合、キャッチーさやドラマチックさを指示されることもありますのでそんな感じに。
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人によってはパースやポーズでドラマチックに演出される方もいますけれど、小島さんの場合は明暗で演出しているということでしょうか。
小島
なるほど(笑)それでも依頼されたお話やテーマにすごく左右されますね。アクション風に描く場合もありますし、静謐な荘厳さを、と思う場合もありますし。
――――――
そうなると自分の好みというよりは、仕事の状況にあわせて描くような感じですか。
小島
そうだと思います、なので自分で画集を見ていても、内容によって絵が、技法手段以外でも色々な気がします(笑)。同時期や平行して全く世界観や対象の違うお仕事をする場合が、イメージや気持ちの切り替えが大変ですね。
――――――
今回の画集を見ると、幻想的で耽美な世界、異形のものを描かれた作品も多いのですが、そういったモチーフは元々お好きだったんですか。
小島
卵と鶏の話のようですが、お仕事で描くうちにそういう傾向になったのか、何か引き寄せてしまったのか (笑)。でも昔から動植物を描くのは好きだったので、そうしたものと人体が混ざり合って変容するような絵が好きなのかもしれません。異形の一種として、普通の美しい人の形でなく、至らないのか過ぎているのかわかりませんが、普通でない美しい人を描く方が好きなようです。描きましたら、そうしたもの、そのパターンでとのご注文を頂くことが多くてかえって縛られてしまったり、冒険できなくなってしまったりも…。
――――――
流線を描くのが好きなんでしょうか?
小島
そういう訳でも、得意でもないのですが、金属や武器など硬質なものを描く必要もありますし、どちらかと言えば質感を描くことが一つのテーマになるかも知れません。らしくないですが(笑)、子供の頃はケーキを描くのが好きでして…お皿があって、銀紙があって、飾り紙があって、フワフワのスポンジ、クリーム、その上にイチゴやキャンディ…子供なりに素材をそれらしく描けたときやそれに向かい合っていることが楽しかったです。
――――――
なるほど。先程、植物と人体が混じり合うような絵が好きだとおっしゃいましたが、それはなぜでしょう?
小島
幻獣や妖精など、今も子供たちが触れるメディアの中によく登場しますが、同様に子供時代に触れた物語や視覚の影響を多く受けていると思います。未知の世界の図鑑、冒険や幻想の小説、いわゆる特撮作品も好きでして、「怪人」とか。怪獣だと未知の生物図鑑的ですが、そこでの怪人というのは、人間が他の特殊な能力を持った生物と合体改造されるんですが、何て夢のような世界だろうと思いまして。怪人と言われるからには、出来上がって来る姿は決して一般的に美しいとは見えないのですが、素材同士の有用な能力が備わっているのなら、それは素敵な存在かもと思えました。融合とは違いますが、昔話や怪談での、人の思いを受けた道具や「へんげ」、擬人化というか万物に魂あり、のような、色々な命の能力や形が融合したものに惹かれるのだと思います。SF的にも哲学的にも、倫理が「心」ならそれを「知恵」の科学が超えて生命をこねてしまうようなテーマにもとても想像の魅力を感じます。画材にしても自然からの原料や素材、色の名前の由来を想ったり。装飾としてでも、人工的なものより自然の、生物たちの造形を纏わせたいとか。植物なら、花は素直に綺麗ですし、一株の中に新芽から 果実、枯れ終えた部分まで同存しているので、変化を同時に持っているところとか。
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そういう意味で翼があるとか、人が変容するモチーフに惹かれるのでしょうか。
小島
そうですね、メタモルフォーゼと言うのでしょうか、欲張りな感じですね、自分の持っている特性以外で何かを取り込もうとしている感じが。羽なら空を飛べるかなとか、エラなら水に棲めるかなとか。無い能力や自由への憧れ。翼というと天使などですが、宗教的な意味の天使では無く、「空を飛べたら」という人間の叶わないことへの憧れ。あちこちの宗教に登場しますし、そうしたものが出来る前の古くからイメージされてますよね。霊的なものとして性別もが無いのなら、具有ではなく、どちらも持たないその自由さにも憧れます。
――――――
そういった天使だとか魔物だとかを描く時に、デザインについては、どのように考えるんですか。
小島
例えば椅子の怪人と言われたら、「この椅子と人間をどうくっつけてやろう」という感じですよね(笑)。楽しいです。ただ見た目を優先するか、利便性を優先するかで、必ずしも一致するとは限らないので形は良いんだけれど、性能はどうかな?とか。そんなことを考えながらやるのは楽しいと思いますが、イラストというお仕事になると、性能や理屈でなく、画面で見たときに形の良い状態で描くように、となりそうですよね。
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こうしてお話を伺って来ると、モデリングペーストにしてもそうですけれど、トータルとして絵に「自由さ」を求めている所があるんでしょうね。
小島
モノクロなど、ものによりその思いを乗せて、あまりきっちり描かずに、ペンのタッチ、ストロークで描くことがあります。私的な感覚としてはペンもパレットナイフに近いというか、ペンはほぼGペンなのですが、あの弾力感と紙に対してガリガリッとなる感じがとても気持ち良くて。筆なら柔らかさや掠る感じ。スポーツや料理をしていて、成果を目指しながらその過程や行為そのもの、感触が気持ちよくて、みたいな(笑)。
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モノクロは見るからに線にも勢いがありますね。
小島
なので筆やペン画で、一応下描きはするのですが、きちんとなぞれなくて。悔しいのでそうした絵の場合、あまり丁寧に下描きはしません(笑)。なぞるよりペンや筆そのものでぐいぐい描いてしまうというか。タッチなど、例えば漫画家さんならモンキー・パンチさんや白土三平さんのような描線のリズム感と言うのでしょうか、好きで。クロード・ワイズバッシュという画家なども、木炭で走るように音楽家や馬の絵を描く人で、素敵だなと思いました。一枚の絵で、アニメーション的な。
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小島さんの場合、背景でラフさ、自由さはありつつも、人物の形はきちっと取ってますよね。
小島
歴史ものなどではあまりデフォルメできませんし、また、内容で「美しい人」と書かれていれば、なるべくそのように努めます、そうした上でのご依頼も頂きますのでパレットナイフでガシガシ、で美しいと思って頂けるものはまだ描けないので…。ただ、例えばご縁のありました菊池秀行さんの物語に出てくる「美しい人」などは、大抵普通の人間じゃないといいますか、魔物だったり人外なことが多かったのです。ですので美しいとされても、異形の美と言うのでしょうか、見た目の綺麗さの上に、妖気や凄みのようなものを出せたらと。普通に美しい女子高生を描けと言われたら、私には難しそうです。少女の生き生きとした可憐さも憧れますが、きっと何かに取り憑かれたような女子高生になってしまいそうです(笑)。
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なるほど(笑)。今回、こうして小島さんの作品が一つの画集にまとまったわけですけれど、どのくらいの時期からの絵が入っているんですか。
小島
学生時分の私製イラストからお仕事をさせていただくようになってからの約20年の中からおしなべて、全面的にピックアップしております。
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制作には小島さんもかなり関わっていますね。セレクトに関して意識したことは?
小島
まず大きく言いますと、私自身、モノクロを描くのが好きなものですから、モノクロを多くさせて頂いたのと、絵のタッチもお仕事の種類も色々ありますので、健全からそうでなさそう(笑)なものまで含んでおります。当初から、これとこれを同じ本にまとめて大丈夫だろうか、との心配が、今でもありますが…。デザイナー氏にも大変ご尽力を頂きました。どう纏めようかと、例えば隣同士に並んでいる絵でも描いた時期に10年の開きがあったり。苦肉の策でテーマや色で組んでいるような頁など、そこは見てくださる方に自由に感じて頂けたらと思っております。
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タイトルに関しては?
小島
そのままの単語ではあるのですが、『サンタ・サングレ』という、好きな映画と重ねさせて頂いた部分もありまして。その映画は、色々盛りだくさんなメキシコの寺山修司氏的な…感じの??(笑)。
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こうして画集が出ることに関して、どんなお気持ちでしょう?
小島
色々と紆余曲折があったのですが、飛鳥新社様はじめ、各方面の皆様にご尽力を頂戴しまして、至らせて頂ける事ができました、ありがとうございました。モノクロの枚数などからも選ぶのに時間がかかってしまいました。しかもアナログなので、探して引っぱり出して来るのも大変だったり経年の傷を直したり。モノクロを探しているときに、こちらへの掲載には少し控えたのですが、バイオレンス系の絵ばかりの束が出てきたりすると、自分の絵にあてられたりもしまして(笑)。こうして改めて向き合うのはエネルギーのいることでして……若気の至りやら直したいやら、と反省と苦悶です(笑)。
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いえ、素晴しい作品の数々です。今回の画集『Santa Lilio Sangre』は、異形の美からバイオレンス、武将まで小島さんの画業を一望できるものになったと思います。本日はどうもありがとうございました。

         

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