小林系 綿貫透インタビュー

Interview2 ~ボールペンで全てを描いてしまう~

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ところで、なぜボールペンだったんでしょう。
綿貫
尋ねたことがあるんですけど、「ボールペンの方が便利なんです。いろんなところに持ち歩いて、その場で描けるから。」って言うんです。で、「じゃあ何? これ、どこか外で描いているの?」って聞いたら、「喫茶店。行きつけのお店。」と言って。でもベローチェなんですよ。ああいうお店って意外と賑やかじゃないですか。絵を描くにはちょっと落ち着かないんじゃないか。そういう場所でこんなことが出来るの? 集中出来るの? って、それも驚きで。こっちも見てみたくなって、「その場で俺もらくがきして良い?」って話して、一緒に描くようになったんです。そのとき、一枚描くのにどれくらい下準備をしているのかを見ていたんですけど、準備は何もしていないんですよ。もちろん頭の中ではしているんでしょうけど、「何でこれを描いたの?」って尋ねても、「何となく。」って。
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喫茶店で二人で一緒に描いたんですね。
小林
そうですね。最初に二人でらくがきしたのは、神保町だったんですよ。
綿貫
古瀬戸という喫茶店でした。
小林
最初、「喫茶店で描く、ってどんなことなんだろう? どんな空気感で描いているんだ?」って綿貫さんが言うから、「じゃあ、ここで描いちゃいましょう」って、ナプキンとかに描いて。
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「絵でコミュニケーションする」のと近い感じですね。
綿貫
そうですね、描きながら、「ちょっと、俺も出来てきた気がする」とか。元々は向かい合わせで、自分の絵を描いていたんですけど、会話が途切れたりして…。で、系はあまりスケッチブックを持ってこなかった時もあったんで、「こっちに描いて良いよ」ってテーブルにスケッチブックを広げたり。系の絵はおかず的なうまさがあるんで、「お前だったらどういう風に化粧させる?」と言って、描きかけ女性の絵を見せたり。こっちが女性を描き出したら、系も女性を描いてみるとか。
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なるほど。絵が出来ていくのを二人で体験するという。
綿貫
完成したものを見ても良いですけど、やっぱりその場で描かれると、もうちょっと理解度が高くなるんですよ。「ああ、そこから描くのか」とか、「ここら辺を重要視しているのか」とか。それこそ、描き順に関しては自分なんかは大体決まっちゃっていて、大体顔からなんですけど、系はとくに決めずに、どこからでも描いてました。あと、自分なんかもせっかちなんですけど、「描く前にもう少し吟味してから描いた方が良いよ」とか、「そうだよな、慌てることはないよな」とかって会話をしたりしつつ。
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系くんは一緒に描いていて、感じたことはありますか?
小林
いやあ、たぶんこれは絵を描く者同士に許された、オツな遊びなのかもしれないですけど、普段絵を描かない人にも是非ともやってみて欲しいと思っています。ただ、綿貫さんくらいキャリアの長い方だと、綿貫さんは今みたいに、「ここから描き始めるのか」とか、発見したみたいな口ぶりで言いますけど、自分ももちろん収穫があります。てらった線じゃない線で、「真っ正直にそう行くか!」っていうことに驚嘆したりとか。
綿貫
よく例えで、「絵というのは文字に例えるとしたら、習字なのか? レタリングなのか?」っていう会話をするんです。そんなに限定しなくても良いんですけど、自分の中ではどうやっても、習字的なアプローチになる。だから、同じ字を書いたとしても、カチッと同じには絶対にならない。そういった意味では、系は、デザイン的でもあるし、習字的でもあるし。ただ、本当のレタリングで、定規で引いちゃえばこの字は完成しますよ、っていう風にはしない方が、絵の緊張感があるんでおもしろいはずだ、というところで二人で落書きしているんですけど。集中して描いた線って、見ごたえがあるというか、見ていて飽きないと思うんですよ。『notebook』なんかも、ボールペンだし、ニュアンスが出づらい線なんですけど、飽きない。
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なるほど。筆で描いたほうが書道的ではあるだろうけど…。
綿貫
そうですね、どっちかって言ったら、筆的なニュアンスのある線の方が好きなんで、『notebook』は斜に構えて見たかったんですけど、ここまでやられちゃうと、「さすがにすごいなあ」と。
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らくがきであるわけだし、一発描きで瞬発的に描いているんですよね。綿貫さんは『notebook』を見た時にどう感じました?
綿貫
いやあ。ルービックキューブで、目隠しをしてやるのがあるじゃないですか。あれに近いですね。「そんなことが出来るの!?」って。ジャングルジムとか複雑な構造物も一発描きしているんですよ。自分が記憶している最低ラインでいろんなものを描けてしまう。系は「間違っていたり、誤魔化しているところがあります」って言うんですけど、俺が描けって言われたら、どう考えてもここまで出来ない。もっと破綻すると思います。
小林
途中で後悔したりもしますよ。
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『notebook』に収録されている絵ですが、ジャングルジムを描くっていうのは、描きたくなるモチーフということでしょうか?
小林
何でしょうね。最初に公園の遊具的なものの風景、みたいなところから始まって、思いつくものに、ジャングルジムがどうしても入ってきちゃって。これは本当に、線の集合体で、「パースラインを意識すれば描けるだろう」ぐらいな、安易なところから始めたんですけど、あとで作為で組まれた集合体だと気づいて…後悔するんですけれども、逆に楽しんでみようかな、と切り替えて。
綿貫
だから、レタリングっぽいアプローチかと思うと、意外と習字っぽいアプローチなんですよね。で、ジャングルジムの入り組んだ内部に人が立っている絵を描いたりする。それがまさに、目隠しして描いたような印象なんですよ、自分からすると。
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確かに見る分には、複雑な構造だからおもしろいですけど、描くとなると…。
綿貫
きついんですよ。試してみたんですよ、自分も。人が入っているとすると、「ここはどうなる?」「ここは隠れる?」とか、じっくり考えれば出来るんでしょうけど、結構時間がかかるんですよね。だったら、下描きをしちゃった方が早いだろうし…。だから、「こういう課題を自分で出してやるって、すごいね」って感じですよね。もし失敗したら…って。かなり仕上げたものがダメになる恐怖感というのも、ないわけじゃないんだろうけど。
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言ってみれば、らくがき帳なわけだから、ちゃんと描けるかどうかは意識していないのかな?
小林
そうですね。その時点では、別に失敗しちゃっても、仮に綿貫さんに見せるとしても、「いや、これ失敗しちゃったんですよ」で済ますくらいにしか意識していなかったです。
綿貫
それでもねえ、らくがきでこれをやられると、俺からするとちょっと…。

インタビュー3へつづく