田島昭宇 インタビュー

田島昭宇の絵的な側面をクローズアップしたインタビュー。カラーイラストの描き方や、チーフとなる人物像について語っていただいた。「季刊エス33号」に収録されたインタビューの増補改訂版で、画集の巻末に収録される文章です。

にじみを生かしたカラーイラストについて

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九〇年代後半から、カプコン、寺田克也さん、村田蓮爾さんたちの絵が話題になって、マンガ的なのにリアルな作風のイラストが出てくるんですが、田島さんは漫画家でありながら、こうした「マンガリアル」的ムーヴメントを作ってきた気がしたんです。田島さんは、漫画家なんだけどイラスト仕事も多かったですよね。当時、そういう実感はありましたか?
田島
『MADARA』が終わってしばらく、あまり漫画を描いていない時期があったんですよ。その時からイラストの発注が結構ありました。イラストを描くのは楽しかったですね。「イラストレーター」って職業に憧れていたんで。だから、もう嬉しくて。例えば戦記ものや時代ものを描いていた毛利彰さんとかが好きでした。あとは、ひろき真冬さんや天野喜孝さん。色を塗る時に、配色とかを見ていましたね。大友克洋さんや鳥山明さんのイラスト仕事も好きで。
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一枚絵で作品を見せるということに対して、自分でも興味があったわけですね。漫画とは表現を変えなければいけないと思っていましたか? 密度とか。
田島
初めの頃はあまり考えていなかったですけど、「もたせなきゃ!」っていう感じですかね。何か「バシッと決まんなきゃ」っていう。漫画の扉絵とも描く意気込みが違くて…。小さいサイズの文庫でも、すごくでっかく描いていたりしましたね。いまいち分かっていなかったのもあるんでしょうけど、大っきく描いていました、がんばって。楽しかったんでしょうね。
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その頃から、田島さんのカラーは、カラーインクの薄塗りが特徴でしたよね。しかも、ドクターマーチンの線画でペン入れをした後に、大きいハケで水を全体に塗って、わざと主線をにじませるのが衝撃的で。
田島
はっきり覚えているんですけど、あれを初めてやったのは、『MADARA』のOVAの二巻の表紙を描いた時です。時間がなくて、何か短時間で見せられる感じにしなきゃ、っていうところからですね。
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完成した線画の上から水を塗るなんて、線画がぐちゃぐちゃになる恐れもありますよね。
田島
いやあ、もうすげえ冒険ですよ。試しとかもなしでやりましたから。
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ハケで水を塗ると、にじんで主線から違う色が出ることは分かっていたんですか?
田島
それは分かっていました。インクの性質は知っていたんで。溶けやすいんですよ。上から水をガーってやると、一発で全体に色が広がるじゃないですか。やってみたら結構上手くいって、良い感じになったんで、「良いじゃん、これ」って。そこから探求が始まりました。最初は、バーッとやった後に、普通にキャラの色を乗せてましたけどね。
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探求していく中で、固有色を塗るだけじゃない方法もあるかな、と思ったんですね。全体を緑にするとか、ニュアンスっぽい塗りをするまでには、少し間があいているんですか。
田島
そうですね。いろいろ試していくわけじゃないですか。何色でペン入れしたら良いのかな、とか。それで、自分の好みの色が定着していったんです。二〇年前のインクのビンとかありますからね。そういうインクってダメになってくるんですけど、ダメになって良い味が出るインクもあるんですよ。化学変化を起こして、緑色なのに赤く変色しちゃったり。それを赤っぽい色として使ったりしました。でも、その一ビンしかないから、それを使い切ったら、もう無くなるんですけどね。だから、使えねえやつを「化学変化してもっと良い色になんねえかな」って、日なたにずっと放っておいたりもするんですけど、起こんないっすね、いまいち。何かね、ぜんぜんダメなインクもあるんですよ、ペン入れに。同じドクターマーチンでも、色によってはすごくにじんじゃって。
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なるほど。主線にはラリーアンドサドルブラウンなんか、よく使ってましたよね。
田島
『ロザリオイエティ』の表紙はオリーブグリーンですね。
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そこにハケで水を塗るシーンを写真に撮らせてもらいましたが、水は少ししか付けないんですね。
田島
水が多いと、筆が洗われて色がなくなっちゃうんですよ。薄くなるっていうか。それで水はほんの少しにするんです。今回は、色を延ばしたあと黄色が強くなってきた印象があったので、人物のバックにオリーブグリーンを塗り足しました。それで肌色を塗って、髪を黄色で塗って…。この金髪を塗った黄色も手作りの色なんですよ。パレットに残したままにしている色で。
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パレットに乾いた絵具が付いていますが、これは黒いですね…。
田島
水に溶かすと黄色になるんです。乾いても水を付ければ使えるのがドクターマーチンの凄いところですよね。俺、ペーパーパレットをよく使うんですけど、新しい絵具を出さずにパレットをそのまま使うことが結構ありますよ。
――――――
なるほど。先ほどのカラーインクの変色の話ですけど、この画集『ロザリオイエティ』にも、絵具の写真を掲載させてもらいました。
田島
変色させているボトルは、ラベルにメモ書きして貼っているんですよね。あと、混ぜて色を作ったりもしてます。黒になにか混ぜたりとか。昔に買ったやつばかりですよ。ちびちび使う感じで。
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薄塗りですし、大量に減らないかもですよね。ところで、全体をもっと濃く塗りたいとは思いませんでしたか?
田島
俺も、「濃く塗んなきゃな」って、思っているんですよ、最近。でも、いきなり濃い色を入れて失敗するのが怖くて、薄い色から塗ったりします。で、そこで良いかなって思ったら、それを軸にして全体を重ねるんです。そうすると、結局あがりが薄くなっちゃったりするんですよ。やり直しても良いんだろうけど、インクの性質上、やらない方が良いし。画面が汚れていっちゃうから。
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カラーインクは混ぜないほうが綺麗ですもんね。
田島
自分の中で設計図みたいに、「ここは濃い色!」って決めてやれれば良いんですけど、怖くてなかなかできないんですよね。
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生の色は鮮やかだから、そこが好きという描き手も多いと聞きます。赤やピンクなどの鮮やかな色が良いと。でも、田島さんは鮮やかな原色を使わないですね。
田島
う~ん、俺の場合だと、そういう色は嘘っぽくなるっていうか。漫画だから嘘なんだけど、ビビッドな色を使っちゃうと、俺的には安っぽくなっちゃう気がするんです。でも、そういう色で描いている人の絵は好きですけどね。俺もやってみたいなあとは思うんですけど、いざやろうとすると、ちょっとね…。ピンクを入れようと思っても、絶対汚ねえピンクにしちゃうんですよ。くすんだ感じに。
――――――
新しく塗られたものなのに、ちょっと褪色しているように見えますね。
田島
そういうのが好きなんじゃないっすか。
――――――
セピア写真のような…。
田島
そういうのは結構好きなんで、何か入っているんじゃないっすかね。セピア写真は好きでしたよ、子供の頃。カッコ良いな、おしゃれだな、って。
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セピアみたいに淡く塗られているものって、人に「はかない」とか「懐かしい」とかの感情を起こさせるじゃないですか。そういう意味合いでしょうか。
田島
あるかもしんないけど…恥ずかしくて言えないっすよ、そんなこと。
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そうですか(笑)。くすんだ色味ということですが、必ず混ぜる色ってあるんですか?
田島
ありますね。絵具を垂らすと最初は鮮やかじゃないですか。それを水で溶いてみて、ちょっとピッとか紙に置いてみると、やっぱり綺麗すぎるんですよ。だから、絶対グレーを垂らしちゃう。グレーとか茶色とか、そういうのを筆でピッと取って入れちゃう。 そうすると、「あ、これで行こう」って決定が出る、みたいな感じですかね。
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でも、くすんでいるのに透明感があるのが凄いんですよね。
田島
薄いからですかね。もっと塗ってみたい気持ちもありますけど。だから、コンピュータで塗ってみてえなあ、とかも思いますけどね。でもまあ、あれって最大の矛盾ですよね、「コンピュータで手描きの水彩風を」って。俺もやってみて、何やってんだろう? って思ったりしましたよ。でも、そう塗ろうとしちゃいますよね。
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やっぱり、時間の短縮とやり直しがきくっていうことで、便利ではあるんですよね。
田島
俺は時間、倍かかっちゃったけどなあ。
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そうでしたか。ところで映画とかでも、色がくすんだ色味の作品はありますよね。セピアの場合は懐かしさを出す意味合いもあったり。
田島
やっぱり画面を見ていて、「これ良いな」って思うことがありますよ。そういう「追憶」的なものもありますよ。あんまり言葉にできないですけど。恥ずかしいですよ(笑)。

         

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